高級腕時計の時計通信

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26.2.2023

ゼニス|なぜ「エルプリメロが欲しい」と考える時計愛好家が増えているのか? 〜ブランド化されるムーブメント〜 ※追記あり(2023/2/26)

Komehyo

ブログ担当者:志津

(追記担当:須川)

 

■ゼニス|なぜ「エルプリメロが欲しい」と考える時計愛好家が増えているのか? 〜ブランド化されるムーブメント〜

 

エルプリメロの時計はありますか?

 

と、来店されるお客様が、時折、いらっしゃいます。

 

唐突でしたので補足をすると、「エルプリメロ」とは、ゼニス(zenith)のクロノグラフムーブメントの名称です。つまり、上の問い合わせは、「エルプリメロというムーブメントを搭載した時計を探しています」という意味なのです。

↑ゼニス「エルプリメロ」

 

昔から時計売場では、「(オメガの)スピードマスターはありますか?」のように、“モデル名”で問い合わせを受けることが一般的でした。しかし最近は、上の「エルプリメロ」の例のように、一部の時計愛好家の方から、“ムーブメント名”で問い合わせを受けることがあります。また、具体的なムーブメント名の問い合わせ以外にも、「自社ムーブメントの時計を探しています」というような問い合わせもあります。

 

上で「最近は」と書いたのは、昔は、ムーブメントを気にした問い合わせはそこまで多くなかったからです。しかし、1990年代後半ごろから多くなってきたように感じます。つまり今は、“ムーブメントで時計を探す人”が増えてきているのです。

 

そこで今回は、エルプリメロを主役にしながら、“ムーブメントで時計を探す人”が増えた理由に迫ります

 

 

 

 

 

 

■エルプリメロは特別なムーブメント

 

“ムーブメントで時計を探す人”が増えた理由を探るには、「エルプリメロ」の存在を理解することが近道になります。そこで、まずはエルプリメロについて説明します。

 

もし高級時計に親しみのある方がこの投稿を読んでくださっているのであれば、お伺いします。

 

エルプリメロと聞くと、どんなイメージがあるでしょうか?

↑エルプリメロ搭載の時計

 

おそらく、エルプリメロに対しては、

 

36,000振動のハイビート

 

デイトナに採用された

 

世界初の自動巻クロノグラフのひとつ

 

というイメージがあるのではないでしょうか。しかし、この回答ができることは特別で、普通は、多くの方はムーブメントに対してその印象を即答できないでしょう。

 

つまり、すぐに印象を語ることができるエルプリメロは、「特別なムーブメント」なのです。

 

では、エルプリメロが「特別」であることを、私なりの見解で説明します。まず、下の画像をご覧ください。

↑ルイヴィトン「タンブール/LV277」

↑タグホイヤー「モンツァ/キャリバー36」

↑ブルガリ「ブルガリブルガリ/ヴェロチッシモ」

 

上の3つのモデルは、ゼニス以外のメーカーにエルプリメロが搭載されている例です。注目して欲しい点は、モデル名と併記したムーブメント名です。ルイヴィトンなら「LV277」、タグホイヤーなら「キャリバー36」、ブルガリなら「ヴェロチッシモ」という名称です。見て分かるように、各メーカーが、エルプリメロに“メーカー独自の名前”をつけて、アピールしています

 

※追記(2023/2/26)

ルイヴィトンは、2022年にタンブールの20周年を迎えました。それを記念して、エルプリメロを搭載した「タンブール・トゥエンティ」を発表しました。この記念モデルにエルプリメロを使っている点でも、エルプリメロの特別性が分かります。

 

 

そして、次の画像もご覧ください。

↑パネライ「ルミノールクロノグラフ」

※上:エルプリメロ搭載、

※下:一般ムーブメント搭載

 

上の画像は、どちらもパネライのルミノールクロノグラフです。画像下のモデルは、一般のムーブメントを搭載する通常のルミノールクロノグラフで、シースルーバックではありません。そして、画像上のモデルはエルプリメロを搭載するルミノールクロノグラフで、裏蓋がシースルーバックにされています

 

少し説明します。現在のパネライは、自社ムーブメントを搭載するようになり、シースルーバックを採用することが増えました。しかし、自社ムーブメントを開発する前のパネライは、汎用ムーブメントを搭載するモデルは、裏蓋をシースルーにしないことが多かったのです。

 

その時代に、敢えてエルプリメロ搭載モデルを、“シースルーバック”という特別な仕様にしているのです。このことから、パネライはエルプリメロ搭載を積極的にアピールしていると感じます。

 

 

 

ここまでの4つの例で、各メーカーの意図するところが分かるのではないでしょうか。つまり、かつての常識から言うと、普通はムーブメントの存在を積極的に押し出すことはありませんでした。しかし、エルプリメロを搭載するモデルを発表した各メーカーは、「特別なムーブメント名を与える」、「シースルーでムーブメントが見えるようにする」という方法を使って、エルプリメロというムーブメントをアピールしているのです。

 

この“各メーカーによって積極的にアピールされていること”から、エルプリメロが特別であると、私は感じるのです。

 

 

 

 

 

 

■“ムーブメントで時計を探す人”が増えた理由

 

ここまでは、前提知識としてエルプリメロのことを理解していただきました。ここからは、“ムーブメントで時計を探す人”が増えた理由について説明します。

 

結論を先に言いますが、その答えは、

 

購入者がムーブメントについての知識を持つようになったから

 

です。

つまり、機械式時計の人気が高まるとともに、時計ファンと時計メディアも成長し、時計に対する知識が増えていったのです。その結果、高級時計の購入者は、ムーブメントに対する知識も深くなっていきました

 

実際に私の印象としても、機械式時計の人気は1990年代に高まりを見せたように感じます。時計雑誌の種類は、1990年代後半以降に増えているイメージがありますし、インターネット上の高級時計の情報は溢れるようになってきました。

 

では、高級時計の購入者が、ムーブメントに対して詳しくなってきている例を挙げましょう。

 

例えば時計ファンは、よく「自社ムーブ」という言葉や「エタポン」という言葉を使います。前者は「自社製造のムーブメント」、後者は「エタ(ETA)社の既製ムーブメントをのせている」という意味です。これらの言葉は、「どのメーカーが作ったムーブメントか」を気にしていることによって生まれた言葉です。

 

このような言葉が生まれることからも、時計ファンのムーブメントに対する造詣が深くなっていることがよくわかります。

 

つまり、時計ファンはムーブメントの種類を気にし始めたのです。そうなると、各時計メーカーは、自社の製品に搭載するムーブメントの種類を気にし始めます。つまり、各メーカーは、“ムーブメントによるブランディング”を始めたのです。そして、その“ムーブメントのブランディング”のために重宝されたムーブメントが、ゼニスのエルプリメロなのです。

↑エルプリメロをブランディングに使う

 

例えば、先に、ルイヴィトン、タグホイヤー、ブルガリ、パネライなど、“ゼニス以外のメーカー”がエルプリメロを採用した例を挙げましたが、これも“ムーブメントによるブランディング”なのです。

 

実際に時計業界で、エルプリメロを使ってどのようなことが行われたのか、状況を説明します。まず、エルプリメロを搭載するメーカーのメインは、製造元のゼニスです。そして、ゼニス以外で大量にエルプリメロを採用したメーカーは、ロレックスです。事実としてロレックスは、1990年代のデイトナ全てにエルプリメロを搭載しました。

 

つまり、ゼニスとロレックスは、エルプリメロを「基幹ムーブメントとして」使っていました。

↑エルプリメロを採用するデイトナ

 

しかし、ゼニスとロレックス以外のメーカーについては、エルプリメロの使い方が違うと感じます。これらのメーカーは、「基幹ムーブメント」としてではなく、「スポット的な採用」で、エルプリメロを使ったように感じます。

 

具体的に言うと、ゼニスとロレックス以外のメーカーは、エルプリメロを“少量製造”または“短期間製造”のモデルに搭載しました。これはいわゆる、「松竹梅の“松(特上)”を作りたかった」ということです。例えば、レギュラーモデルには汎用ムーブメントを採用する一方で、エルプリメロ搭載の「特別モデル」を作り上げるような使い方です。

 

エルプリメロをスポット的に採用したメーカーは、先に挙げた、ルイヴィトン、タグホイヤー、ブルガリ、パネライなどです。それ以外にも、ダンヒル、コンコルド、ダニエルロート、ウブロなども、エルプリメロを採用したことがあります。

↑エルプリメロを搭載するウブロ

 

このように、購入者がムーブメントについての知識を持つようになったことによって、時計メーカーは、“ムーブメントによるブランディング”を行うようになりました。そして、そのブランディングの手段に使われたのが、エルプリメロだったのです。

 

 

 

 

 

 

■エルプリメロ以外に、特別なムーブメントはなかったのか?

 

ここまでを理解すると、もしかすると、「エルプリメロ以外に特別感を出せるムーブメントはなかったのか?」という疑問を持つ方もいるかもしれません。最後に、この点を説明しておきます。

 

まず、前述の通り、エルプリメロ

 

「36,000振動」

「デイトナに採用」

「世界初の自動巻クロノグラフのひとつ」

 

という売りがあり、かなりインパクトがあります。

 

では、各メーカーがエルプリメロを積極的に採用し始める時期である、1990年代ごろの“自動巻クロノグラフのライバル機”を見てみましょう。対象機は以下です。

 

 

 

<エルプリメロのライバル機>

 

①フレデリックピゲ「1185」

「高級機」というイメージがあるので、松竹梅の「松」としての打ち出しは可能か。ただし、エルプリメロほどのインパクトはない。

 

②エタ「7750」

→業界で最もメジャーな汎用機のため、特別感の打ち出しができない。

 

③エタ+デュボア・デプラ2000系モジュール

→こちらも業界ではメジャーな汎用機のため、特別感の打ち出しができない。

 

④レマニア「1350」

→独特の機構なため魅力はあるが、どちらかというとマニアックな存在。エルプリメロほどのメジャー感はない。

 

⑤レマニア「5100」

→エタ7750のライバル機というイメージがあり、特別感の打ち出しは難しい。

 

 

上の5つのライバル機に対しては、私の個人的な所感を添えておきました。私の意見としては、やはりライバル機はエルプリメロのインパクトに匹敵しないと考えます。多くのメーカーが、エルプリメロを採用した理由はここにありそうです。やはりエルプリメロほど「インパクト」があり、「ブランディング」に適したムーブメントはなかったのです。

 

 

 

 

 

 

ここまで説明したように、エルプリメロには特別感があり、時計メーカーにブランディングの手段として使われています。だからこそ、時計愛好家の方からの、「エルプリメロの時計ありませんか?」という問い合わせがあるのでしょう。特に最近は、エルプリメロを搭載するデイトナの価格高騰もあり、エルプリメロの存在感がより大きくなっているように感じます。

 

※追記(2023/2/26)

そして、2019年、通称「エルプリメロ2」が登場し、エルプリメロは進化を果たします。パワーリザーブが50→60時間へアップし、なんと、10秒で1周するクロノ秒針が採用されました(これまでは、60秒で1周でした)。エルプリメロは、新時代に突入しています!

↑エルプリメロ2と呼ばれるCal.3600

 

皆さんも、エルプリメロの魅力に気付いたときには、きっと「エルプリメロの時計ありませんか?」と、時計売場を訪れることになるかもしれません!

 

 

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