高級腕時計の時計通信

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19.3.2021

【今の時計業界の最先端を知る】「振動数」と「パワーリザーブ」の最先端!

Komehyo

ブログ担当者:須川

 

■【今の時計業界の最先端を知る】「振動数」と「パワーリザーブ」の最先端!

 

高級時計に興味のある方なら、「振動数」「パワーリザーブ」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。

 

例えば、ロレックスの自動巻きムーブメントCal.3135なら、

 

「28800振動/毎時、48時間パワーリザーブ」

 

というスペックで説明されます。

↑ロレックスCal.3135

 

高級時計に詳しい方なら、このCal.3135の振動数やパワーリザーブを聞いて、「十分なスペックだ」とか「もっとスペックが欲しい」などと個人的な意見をもつかもしれません。しかし、この「振動数」や「パワーリザーブ」の意味、そして、それらの関係などが分からないと、その発想さえもつことができません。

 

そこで今回は、「振動数とパワーリザーブについて」説明をいたします。そして、「振動数とパワーリザーブの最先端の状況」についても説明し、今の時計業界の最先端をもお伝えいたします。

 

 

 

 

 

 

■「振動数」と「パワーリザーブ」とは?

 

まずは、「振動数」、そして「パワーリザーブ」について簡単に説明します。

 

振動数とは、

 

時計内部の“時間のペースを作る機構”が、1時間(または1秒間)に動いた回数

 

のことです。

 

補足ですが、“時間のペースを作る機構”とは、専門的に言うとムーブメントの「調速脱進機」のことです。ここでは、この機構の動きを「振動」と表現しています。

↑テンプ(金色の輪)を中心とする調速脱進機

 

例えば、この機構が1秒間に8回動く場合は、「8振動」と表現します。1時間単位に変換するなら、8振動×60(分へ)×60(時間へ)で、「28800振動」です。皆さんにも想像していただきたいのですが、「1秒間に8回」というと、かなりの速さで動いているものと感じるのではないでしょうか。実際に、調速脱進機はこれだけ高速運動する部品ですので、シースルーにして鑑賞できるようにしているモデルもあります。まさに、機械式時計の醍醐味を感じることができる部分です。

↑調速脱進機が鑑賞できるモデルもある

 

実はこの振動数は、多ければ多いほど、精度の維持が優位になります

 

例えば、“1秒の針の動き”で考えてみましょう。まずは、秒針を「1秒間に1回動かす」構造(=1振動)にした場合です。もし、その1回の動きが、外的な衝撃などでエラーとなったら、どうでしょう。きっと、精度は“確実に1秒”狂います。

 

次に、秒針を「0.1秒間に1/10秒分動かし、10回の動作で1秒を作る」構造(=10振動)にした場合を考えましょう。この場合なら、例え1回の動作にエラーが発生しても、残りの9回が動作してくれます。そのため、もし1回のエラーがあっても、精度としては“まるまる1秒”狂うことはありません。

 

つまり振動数は、衝撃などで起こる“動作エラー”に対する精度への影響の度合いに関係します。これが、振動数という数値を気にかける理由です。

 

現在の主流は8振動(28800振動/時)ですので、10振動(36000振動/時)以上だと特別感がある印象です。逆に、6振動(21600振動/時)以下だと、クラシカルだと感じます。

 

 

 

次に、パワーリザーブについてです。

 

パワーリザーブは、厳密に言うと複数の意味があるのですが、今回は純粋に

 

「最大の駆動時間」

 

いうことで説明させていただきます。

 

例えば、パワーリザーブ48時間の機械式時計であれば、ゼンマイを一杯まで巻き上げた後、「48時間ほど動き続ける」ということです。これは、ゼンマイの巻き足しをしない場合の話ですので、着用中にゼンマイを巻き足す自動巻き時計であれば、「放置している間」の話と捕らえてください。

 

パワーリザーブが問題となる具体的な点を挙げましょう。それは、“土曜と日曜は腕時計を着用しない人”にとっての、「月曜の朝に、まだ時計は動いているか」という問題です。

↑月曜の朝に時計は動いているか

 

土曜と日曜の2日間、もっと具体的にすると、「金曜の夜から月曜の朝まで」時計が止まらないパワーリザーブは、最低でも60時間は必要でしょう。

 

機械式時計のパワーリザーブは、伝統的には36~50時間ほどであることが多く、かつては「1日使わない場合でも止まらない」という基準が主流でした。例えば、冒頭で例に出したロレックスのCal.3135は1989年に登場したムーブメントで、パワーリザーブはこの範疇にあります。

 

しかし、最近は約70時間のパワーリザーブを持つものも増えており、土日に放置しても稼動し続ける時計も増えています。例えば、2015年以降に登場するロレックスの新ムーブメントCal.3200系は、70時間パワーリザーブです。まさに、この新たな流れに乗っている例と言えるでしょう。

↑ロレックスの新ムーブメントは70時間

 

※「振動数」「パワーリザーブ」については、過去の投稿でも説明していますので、是非、そちらもご覧ください

高級時計のスペック表示に登場する「28800振動」とはどういう意味?(前編) ~「振動数」を理解する~

【腕時計の基本知識】よく登場する用語「パワーリザーブ」とは何のこと?

 

 

 

 

 

 

■「振動数」と「パワーリザーブ」の関係とは?

 

ここまで、「振動数」と「パワーリザーブ」の説明をしてきました。次に、よりマニアックな知識として、「振動数」と「パワーリザーブ」の関係を説明します。

 

簡単に言うと、前提条件(例えば、ゼンマイのトルク、機構の摩擦抵抗、テンプの大きさ)が変わらないのであれば、

 

 

①「振動数を上げる」=「パワーリザーブを減らす」

 

②「振動数を減らす」=「パワーリザーブを増やす」

 

 

という関係があるのです。

 

つまり、“高い振動数”と“長いパワーリザーブ”は、トレードオフの関係なのです。これは、限られた力(ゼンマイのトルク)を、どちらに配分するかの話でもあります。

 

例えば、ブレゲの「クラシック5907」というモデルがあります。このモデルは1999年ごろにマイナーチェンジを行います。その新旧の違いは、旧モデルが「振動数28800、パワーリザーブ約72時間」でしたが、新モデルは「振動数21600、パワーリザーブ約95時間」になります。振動数を落としてパワーリザーブを伸ばしたこのモデルは、まさに、振動数とパワーリザーブの関係性を表した好例です。

↑ブレゲ/クラシック5907

 

もし、「振動数」と「パワーリザーブ」の両方を好条件で満たしたいなら、特別な工夫が必要です。例えば、上のブレゲは、その特別な工夫を行い、「振動数28800、パワーリザーブ約72時間」という当時の標準を超えた数値を叶えました。一応、分かりやすいように当時の標準値を挙げるなら、「振動数28800、パワーリザーブ48時間」でしょう。つまり、このブレゲは、通常より長いパワーリザーブをもっています。

 

では、なぜこのブレゲは標準的な数値を超えることができたのでしょうか。実は、このブレゲのクラシック5907はツインバレルのタイプで、なんと2つの動力ゼンマイ持っています。通常、動力ゼンマイは1つですので、このブレゲはゼンマイを増やすことでトルクを捻出し、パワーリザーブを伸ばしたのです。さらにこのモデルは、その後、それ以上のパワーリザーブ(72→95時間)を求めて、振動数を落とす選択をします。

↑動力ゼンマイが2つある(ツインバレル)

 

振動数を減らして、20%以上(20時間以上)もパワーリザーブを伸ばしている点は、興味深いと思います。それだけ、振動数を上げることにトルクを使っている証明にもなります。

 

実際に、機械式時計の理論の話では、「振動数を上げるにはより強いゼンマイが必要である」ということになっています。例えば、振動数を上げるためには、振動数の2乗に比例する強さのゼンマイが必要と言われています。これは、5振動から8振動にするには、2.56倍の強さのゼンマイが必要ということです。8振動から10振動なら、1.56倍です。それだけ、振動数を高くすることは大変なのです。

 

 

 

 

 

 

■「振動数」と「パワーリザーブ」の最先端は?

 

最後に、「振動数とパワーリザーブの両立は難しい」ことを理解した皆さんに、時計業界の最新ムーブメントの凄さを紹介します。

 

実は、最近の機械式時計は、「振動数を高くしながら、パワーリザーブを伸ばす」という凄いことをやっています。つまり、“高い振動数”と“長いパワーリザーブ”の両立です。なんと、10振動にしながら、60時間以上のパワーリザーブなのです。

 

ここでは細かな技術は説明しませんが、これは、ゼンマイの大型化、部品の軽量化、摩擦の低減を追求して辿り着いた数値です。

 

例えば、ゼニスの最新ムーブメント、エルプリメロ3600は、「振動数36000、パワーリザーブ60時間」という数値を実現しています。また、グランドセイコーの最新ムーブメントCal.9SA5は、「振動数36000、パワーリザーブ80時間」です。

 

これがどれだけ凄いことか、今の皆さんなら、ご理解いただけるのではないでしょうか。今の時計業界の最先端は、ここまで技術が進んでいるのです!

 

 

 

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