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31.7.2020

パテックフィリップのメインエンジン「Cal.215」を解説! ~パテックフィリップを支える手巻ムーブメント~

Komehyo

ブログ担当者:須川

 

■パテックフィリップのメインエンジン「Cal.215」を解説! ~パテックフィリップを支える手巻ムーブメント~

 

今回は、パテックフィリップの手巻ムーブメントCal.215」を紹介します。

Cal.215は、約40年間に渡って活躍しているムーブメントです。現在も、カラトラバ5196などに搭載され、現役のムーブメントとして使われています(※1)。まさに、パテックフィリップの時計の“メインエンジン”の1つと言って良いでしょう。

↑カラトラバ5196

 

では、このCal.215は、どのようなムーブメントなのでしょうか?きっと、このムーブメントが気になる方は、より正確な情報を求めて、パテックフィリップの公式ホームページをチェックするかもしれません。しかし、実際に公式ホームページを見てみると、そこに掲載されている情報は、以下の内容です。

 

 

 

“215

外径: 21.9 mm。

厚さ: 2.55 mm。

部品総数: 130個。

受けの枚数: 5枚。

石数: 18石。 

連続駆動可能時間: 最小44時間。

テンプ: ジャイロマックス。

毎時振動数: 28 800 (4 Hz)。

Spiromax®。 

認定刻印: パテック フィリップ・シール。”

 

 

 

この上の内容だけでCal.215を理解できる方は、相当な時計上級者です。きっと多くの方は、この情報だけではCal.215の特徴を把握できないでしょう。

 

そこで今回は、「Cal.215はどのようなムーブメントか」を理解できるように、説明していきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

■「Cal.215」はどのようなムーブメント?

 

最初に結論を言います。

 

Cal.215は、

 

パテックフィリップの“伝統的な10型手巻ムーブメント”に、「スリムさ」、「現代的スペック」を与えたもの

 

です。

例えば、私がCal.215を見ると、外観は「伝統的な手巻ムーブメント」だと感じます。また同時に、「小ぶりでスリムなムーブメント」とも感じます。これは、おそらくパテックフィリップ側も意図していると思いますが、愛好家に対して“クラシックな外観”を感じてもらいたいのだと思います。だからパテックフィリップは、現在でもこの“クラシックな外観”のムーブメントを作り続けているのでしょう。

 

そのような“クラシックな外観”ながら、性能は「現在の標準性能」の範疇にあります。そのため、約40年前に作られたムーブメントにもかかわらず、現行モデルに搭載しても問題ない性能があるのです。

 

 

 

 

 

 

■「Cal.215」を解説!

 

おそらく、ここまの説明だけで、Cal.215を理解するのは難しと思います。そこで、もう少し詳しく説明していきます。

 

ここでは、

 

「Cal.215は、“伝統的な10型手巻ムーブメント”である」

 

「Cal.215は、“スリム”である」

 

「Cal.215は、“現代的スペック”である」

 

という3つに要素を分けて、一つ一つ説明しています。

 

 

 

①Cal.215は“伝統的な10型手巻ムーブメント”である

 

まずは、Cal.215がパテックフィリップの“伝統的な10型手巻ムーブメント”である点を説明します。

 

おそらく、多くの方が「10型」という用語で引っかかると思います。「10型」という用語はムーブメントサイズの話しなのですが、より理解するには、過去のパテックフィリップのムーブメントも理解した方が良いと思います。そのため、ヴィンテージ時代の話も含めて、説明いたします。

 

まず押さえたいのは、伝統的にパテックフィリップの紳士用手巻ムーブメントは、サイズが2タイプあるという点です。通常の紳士用に使われる「12型(約27㎜径)」と、やや小ぶりな「10型(約22.5㎜径)」です。

 

ヴィンテージ時代の感覚で言うと、12型の方が主役的な印象で、例えば、有名なRef.96(クンロク)も12型ムーブメントを搭載しています。10型はモデルバリエーションを広げるために作られた印象があり、例えば、小ぶりなラウンドタイプやスクエアタイプに採用されました。

 

時系列を捕られると、1935年ごろに12型の名機「Cal.12-120」が登場し、4年ほど遅れてより小ぶりな10型の「Cal.10-105」が登場します。このCal.10-105が、“Cal.215の祖先”と言っても良いでしょう。

1939年ごろに誕生したCal.10-105は、その後世代を重ね、Cal.10-110、Cal.10-200、Cal.23-300と進化します。そして、1977から78年ごろに、Cal.215に世代交代します。これが、パテックフィリップの10型手巻ムーブメントの歴史です。この歴史を紡いできた事実を見ても、10型の伝統を今に引き継ぐCal.215は、間違いなくパテックフィリップの「伝統」と言って良いでしょう。

 

 

 

②Cal.215は“スリム”である

 

次に、Cal.215は“スリム”である点を説明します。

 

下に一覧できるリストを用意しました。このリストで、歴代の10型手巻ムーブメントの直径厚みがわかります。

まずは、10型の“直径”の話です。先の説明で「10型(約22.5mm)」と紹介し、ミリメーターでの表現も付けましたが、この数値は便宜上、「23mm」にすることもあります。実際は、この数値もそこまで厳密には取らず、「おおよその直径が22.5mm前後」というニュアンスが正確なところでしょう。

 

そして、注目したいポイントは、“厚み”です。Cal.10-105で3.15mmだった厚みは、Cal.10-110で3.65mmまで厚くなります。しかし、その後、Cal.23-300で3mmまで厚みを抑え、Cal.215ではなんと2.55mmまで厚みをスリムにすることに成功します。これだけパテックフィリップがムーブメントをスリムにしたのは、当時、「薄い腕時計」に需要があったからです。その需要に応えるべく、パテックフィリップもムーブメントの厚みをスリムにしたのです。

Cal.215のサイズをイメージすると、ちょうど、“2枚重ねた5円玉”をやや薄くしたぐらいです。5円玉を2枚重ねると、直径が約22mmで、厚みが約3mmになりますので、それよりも厚みが少ないCal.215は、かなりコンパクトな印象のムーブメントです。特に、Cal.215は手巻ムーブメントですので、自動巻と比較するとそのコンパクトさは際立ちます。例えば、「コンパクトな自動巻ムーブメント」と言われるETA2892A2は、直径25.6mm、厚さ3.6mmですので、Cal.215はかなりコンパクトに見えるはずです。

 

 

 

③Cal.215は“現代的スペック”である

 

次に、Cal.215は“現代的なスペック”を持っている点を説明します。下に、10型の各手巻ムーブメントのスペックを表したリストを用意しました。

“振動数”は高くなればなるほど現代的なのですが、Cal.215は、28800振動を採用しています。28800振動というと「現在の標準的な振動数」というイメージで、特に、自動巻の多くはこの振動数を採用する印象です。ただし、手巻ムーブメントに関しては、現在でも21600振動以下を採用することもあります。その意味で、手巻ムーブメントで28800振動を採用するCal.215は、十分に現代的です。

 

※振動数について知りたい方は、是非、過去の投稿をご覧ください

↓↓↓

高級時計のスペック表示に登場する「28800振動」とはどういう意味?(前編) ~「振動数」を理解する~

 

そして、テンプの種類ですが、Cal.215は“ジャイロマックステンプ”を採用します。ただし、難しくなるので、このテンプについてここでは詳しく説明しません。ニュアンスのみお伝えすると、このジャイロマックステンプは「フリースプラング」と言われるタイプで、このフリースプラングは、現在、新規開発されるムーブメントの多くに採用される方式です。そのため、“現在の新標準”と言えるような、まさに現代スペックです。

↑ジャイロマックステンプ

 

 

 

 

ここまで説明したように、Cal.215は、約80年前から引き継ぐような伝統的ムーブメントでありながら、「より薄く」「よりハイスペックに」されたムーブメントなのです。そして、思い返すと、その登場は、1970年代後半なのです。1970年代に与えられたスペックが、現在でも十分通用するようなものだったからこそ、Cal.215は長寿でいられるのです。

 

そして、10型という小ぶりなムーブメントは、小さなケースから大きなケースまで、柔軟に収まるので、使い勝手が良いのでしょう。これが、現役のムーブメントとして活躍できている理由かもしれません。

 

 

 

 

 

 

■最後に

 

今回は、パテックフィリップの手巻ムーブメント「Cal.215」を解説いたしました。

Cal.215には、パテックフィリップの伝統、そして、現代でも通用するスペックがあり、パテックフィリップが“メインエンジンの1つ”として採用することも理解できます。本当に、素晴らしいムーブメントです。このメインエンジンは、96系カラトラバ「3796」「5196」、クル・ド・パリ系カラトラバ「3919」「5119」など、多くの名作に搭載されています。

↑クル・ド・パリ系カラトラバ「5119」

 

また、パテックフィリップの10型ムーブメントに興味が沸いた方は、是非、過去のムーブメントにも目を向けてみてください。特に、Cal.10-200Cal.23-300のブリッジのレイアウトは、12型のブリッジレイアウトに似ており、かなりの美しい外観です。そして、巻上げヒゲも採用しています。機会があれば、是非、チェックしてみてください!

 

 

 

※1・・・Cal.215を搭載するモデルのキャリバー名が「215PS」と表現されている場合があります。これは、「スモールセコンド付きのCal.215」という意味です。

 

 

 

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