高級腕時計の時計通信

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7.6.2021

【グランドセイコー最新ムーブメント】話題のキャリバー「9SA5」を語る!

Komehyo

ブログ担当者:須川

 

■【グランドセイコー最新ムーブメント】話題のキャリバー「9SA5」を語る!

 

今、時計業界でグランドセイコーの新しいムーブメントが話題になっています。

 

その新しいムーブメントは、

 

9SA5

 

というキャリバー名で呼ばれます。

 

 

この9SA5は、2020年にセイコーから発表されるやいなや、多くのメディアに取り上げられました。その注目度の高さは、「グランドセイコーの新世代ムーブメントである」点、そして、「革新的な技術が使われている」点からくるものでしょう。

 

私も、この9SA5のことを知った時に、驚いたのを覚えています。そして、幸いにも、実際に9SA5を手に取って見る機会がありました。そこで、今回は、9SA5に対する私の感想を書かせていただこうと思います。

 

 

 

 

 

 

■最新ムーブメント「9SA5」の感想

 

2020年に発表されたグランドセイコーの新ムーブメント「9SA5」は、メカニカルムーブメント“9Sキャリバー”の最新機種です。私は、このムーブメントを、グランドセイコーの60周年記念限定モデル(SLGH003)で確認しました。

 

↑グランドセイコーSLGH003

 

先に、私の感想を言うと、

 

最新の技術トレンドを詰め込んだムーブメント

 

だと感じました。

 

そして、

 

世界基準を超えたムーブメント

 

だとも思いました。

 

この感想は、少し補足説明が必要だと思いますので、解説します。

 

まず、9SA5が「最新の技術トレンド」を取り込んでいる点についてです。

 

例えば、下の3つの要素は、高級時計の世界で起こっている、ムーブメントの最新トレンドに追随するものです。

 

 

 

<ムーブメントの最新トレンド>

 

①「ツインバレル(主ゼンマイを2つ)」搭載するロングパワーリザーブ(約80時間)

 

 

 

 

②衝撃などでも調整がずれにくい「フリースプラング」採用

 

 

 

③テンプの保持が強固な「ツインブリッジ」採用

 

 

具体的に例を挙げると、主ゼンマイを2つ搭載する「ツインバレル式」は、カルティエの1904-PS、チューダー(ケニッシ)のMT56系、ショパールのL.U.C96-01などでも採用されています。

 

また、「フリースプラング」は、ロレックスやパテックフィリップが長きにわたって主導する方式です。

 

さらに、「ツインブリッジ」は、ロレックスが3100系以降で基本採用し、多くのフォロワーを生み出している状況です。

 

これらの技術は、最新の設計のムーブメントにしばしば見られるもので、セイコーもこれらの技術を取り入れたのです。

 

 

 

次に、9SA5が「世界基準を超えている」と感じる点も説明します。

 

例えば下の3つの要素は、セイコーが、スイスの標準的なスペックを超えている点です。

 

 

 

<スイスイスの標準的なスペックを超えている点>

 

④「デュアルインパルス脱進機」という、先進的な技術を導入

 

 

 

 

⑤「巻き上げヒゲ + 36000振動/時」という、高精度を出しやすい技術を採用

 

 

 

 

⑥「曲線を多用した分割ブリッジ」、「美しいルビーと仕上げ」を組み合わせ、美観を追求

 

 

こここで挙げた要素は、スイスの一般的なムーブメントの仕様を超えている点です。もちろん、スイスをリードするトップメーカーの一部は、“武器”としてここに挙げたものと同等の仕様を採用していますが、グランドセイコーの9SA5はそれらを同時採用しています。

 

例えば、ロレックスは基本的に「巻き上げヒゲ」を採用しますが、「36000振動/時」は採用していません。逆に、ゼニスは「36000振動/時」を採用しますが、基本は「巻き上げヒゲ」ではありません。しかし、9SA5は両方を同時採用しており、「ロレックスの良い点+ゼニスの良い点」の合わせ技のようなイメージです。

 

また、「曲線を多用した分割ブリッジ」と「美しいルビーと仕上げ」を施している点は、ハイランクの高級ムーブメントのように感じさせます。

 

例えば、下に比較画像を用意しました。上側の画像がこれまでのグランドセイコーのムーブメントです。そして、下側が超高級メーカーのオーデマピゲのムーブメントです。これを見ると、今回の9SA5は、オーデマピゲ側(下側)の外観に近くなったのではないでしょうか。ここまでの外観になると、スイスの一般的なムーブメントを超えていると感じます。

 

 

そして、9SA5で最大の話題になっている仕様は、「デュアルインパルス脱進機」です※。これは、セイコーが新たに作り上げた脱進機で、従来のスイスレバー脱進機とは異なる仕組みとなっています。

 

このデュアルインパルス脱進機については、詳細を説明すると専門的になりますので、ここでは、単純にメリット部分に注目して説明します。最大のメリットは、この脱進機を採用することにより、動力から伝わる力のロスを減らすことにあります。理論値では、従来のものより、約20%ぐらい改善されていると言われています。

 

近年も、いくつかのスイスメーカーが新しい脱進機を開発してきました。しかし、それを研究に留めず、レギュラーモデルにまで落とし込んだのは、オメガのコーアクシャル脱進機ぐらいしかない状況です。もし、この9SA5が、グランドセイコーのレギュラーモデルに基本搭載するようになれば、オメガ以来の衝撃的な出来事になるかもしれません。

 

↑オメガのコーアクシャル脱進機

 

ここで挙げた全ての要素を、一つのムーブメントに詰め込んだ点に、9SA5の凄さがあります。

 

 

 

 

 

 

 

■最後に

 

今回は、グランドセイコーの最新ムーブメント9SA5を紹介してきました。

 

 

前述のように、私は9SA5に対して、

 

最新の技術トレンドを詰め込んだムーブメント

 

世界基準を超えたムーブメント

 

という感想をもっています。

 

つまり、「世界に追いつけ、追い越せ」の姿勢で作られたムーブメントなのでしょう。

 

もちろん、新たなものを作り出した場合は、賛否両論みられることが常です。ネガティブな要素としては、「これまで積み重ねた“セイコースタイル”を捨てて、“世界トレンドに寄っていった」点だと思います。例えば、セイコーの伝統技術であるマジックレバーも採用していませんし(9S65以降ですが)、独特な形状の偏芯ネジ式微調整緩急針もなくなりました。そして、従来の工業品寄りのムーブメント外観もなくなりました。これは、従来のセイコースタイルが好きな方からすると、否定的なことかもしれません。

 

しかし歴史を振り返ると、セイコーを筆頭とする国産時計は、スイスなど海外の時計を模倣することからスタートし、進化してきた歴史があります。それが伝統なのであれば、世界トレンドに寄っていき、「世界を超えようとしている」姿勢もまた、“セイコースタイル”なのかもしれません。実際、かつて天文台コンクールでスイスを凌駕し、クォーツ腕時計でスイスを凌駕した歴史は、それに当てはまります。

 

是非、グランドセイコーの9SA5をレギュラーモデルに搭載して、新たな“セイコースタイル”を世界へ披露することを期待しています!

 

 

 

※デュアルインパルス脱進機は、デテント式脱進機の改良版と言われる「ロビン脱進機」の系統に近い仕組みで、近年でいうとオーデマピゲのAP脱進機に近いものです。これは、ガンギ車とテンプの力の伝達に“直接伝達”を組み込むもので、“間接伝達”のみの一般的なスイスレバー脱進機とは異なります。オメガのコーアクシャル脱進機も似た効果を狙った機構ではありますが、9SA5の方がよりシンプルで軽量な部品設計になっているため、よりスマートに感じます。

 

 

 

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