12.1.2020
【高級時計のマニアックな常識】高級な自動巻クロノグラフは「フレデリックピゲ」! ~時計業界を支えたCal.1185~
Komehyo
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ブログ担当者:須川
■【高級時計のマニアックな常識】高級な自動巻クロノグラフは「フレデリックピゲ」! ~時計業界を支えたCal.1185~
今回は、「高級時計のマニアックな常識」を紹介します。つまり、一般の方には知られていないことですが、時計愛好家の方にとっては常識のひとつとなっていることをお伝えします。
それは、
「高級な自動巻クロノグラフは“フレデリックピゲ”のCal.1185を搭載している」
というものです。
ただし、この常識を聞いた多くの方が、おそらく「フレデリックピゲのCal.1185って何!?」という疑問を抱くと思います。まずは、画像で紹介します。
この画像は、パネライのルミノールクロノ2000(PAM00045)というモデルの裏蓋を写したものです。シースルーになった裏蓋から見えるムーブメントが、フレデリックピゲ製の「1185」というムーブメントです(今回は「Cal.1185」と表現します)。このムーブメントは、タイプとしては、「自動巻クロノグラフ」という種類です。
このルミノールクロノ2000を正面から見た画像も用意しました。
このCal.1185が採用されたルミノールクロノ2000は、時計本体の素材が18金ホワイトゴールド製で、パネライの「スペシャルエディション」と言われる特別なモデルです。
つまりこのCal.1185は、パネライの特別なモデルに採用されているのです。実際、同じ時期のパネライの定番モデルのクロノグラフには、ETA社製の汎用ムーブメントが採用されていますので、差別化されていることがわかります。
その他にも、Cal.1185は
このような有名モデルのベースムーブメントとしても使われています。
今回は、このフレデリックピゲのCal.1185を紹介します。ずっと時計業界を支えてきたムーブメントですので、是非、その存在を知っていただければ幸いです。
■フレデリックピゲとは?
まず先に、「フレデリックピゲ」について簡単に触れておきます。
フレデリックピゲ(Frederic Piguet SA)は、スイスのムーブメントメーカーです。1858年、ルイ・エリゼ・ピゲにより設立されました。ずっと、その高度な技術で時計業界を支えており、ブランパン、オーデマピゲ、ブレゲ、ヴァシュロンコンスタンタン、パテック フィリップ、カルティエなど、多くの時計メーカーにムーブメントを供給してきました。
特に、フレデリックピゲの、1980年代以降の“ブランパン復興”への協力は有名で、その開発力を世界に知らしめた感があります。
↑ブランパン復興に協力
フレデリックピゲは、手巻・自動巻の機械式ムーブメントに加え、クォーツムーブメントも作っています。まさに万能です。私の印象としては、ETA社に次ぐ存在感をもつムーブメントメーカーというイメージです。しかし、1993年には現スウォッチグループの傘下となり、今はブランパンのムーブメント部門となっています。
■Cal.1185の印象は「高級な自動巻クロノグラフ」!
次に、フレデリックピゲが作り出した、自動巻クロノグラフムーブメント「Cal.1185」について説明します。
冒頭でも書きましたが、Cal.1185の印象は「高級な自動巻クロノグラフ」というイメージです。特に、2000年代以前はそのような印象が強かったです。ただし2000年代以降は、自社でクロノグラフムーブメントを開発するメーカーが増えており、今はCal.1185の活躍は減りました。
しかし、かつては違います。
例えば1990年代なら、時計メーカーは“自動巻クロノグラフ”を作る際のムーブメントに、
・ETA社製/Cal.7750など
(業界標準機)
or
・フレデリックピゲのCal.1185
(高級機として知られる)
という選択肢で考えていたはずです。
実際に、時計業界でも格のあるいくつかのメーカーは、ETA社製ではなく、Cal.1185を採用しました。そのため、「フレデリックピゲ搭載のクロノグラフウォッチ」と聞くと、“高級モデル”という印象があるのです。
例えば、Cal.1185採用の有名なモデルとしては、
・カルティエ「パシャ」
・オーデマピゲ「ロイヤルオーク」
・ヴァシュロンコンスタンタン「オーヴァーシーズ」
・ブルガリ「ディアゴノ カリブロ303」
が挙がるでしょう。また、前述したようにフレデリックピゲとブランパンは密接に関わっています。そのため、ブランパンのクロノグラフについてはフレデリックピゲ製が採用されています。
オメガの「スピードマスターデイト」、タグホイヤー「カレラ」、ブライトリング「クロノマット」など、一般的に人気のある自動巻クロノグラフの多くはETA社製でしたので、Cal.1185採用は差別化としても有効だったのでしょう。
■Cal.1185の特徴とは?
次に、Cal.1185の特徴にも触れておきます。
Cal.1185の特徴は、なんといっても、ムーブメントの「薄さ」です。なんと厚みが5.4mmほどと言われています。
業界標準機であるETA社のCal.7750が厚み7.9mmですので、Cal.1185は2.5mmも薄いのです。例えば、Cal.1185に10円玉(厚み約1.5mm)を重ねても、ETA7750より薄い計算になります。自動巻クロノグラフとしてはかなりの薄型と言えるでしょう。
「なぜ薄いのか」という点ですが、そもそも“ベースとなった機械”が薄型だったのです。少し説明すると、Cal.1185の設計は、エドモンド・キャプト氏によるものです。1987年に手巻のCal.1180として誕生し、自動巻化することでCal.1185となりました。その“ベースとなった機械”であるCal.1180の厚みが、そもそも、約3.9mmと薄型だったのです。
↑そもそもベースのCal.1180が薄型
そして、「薄い」ムーブメントにする利点ですが、なんといっても、「デザインが自由になる」ことでしょう。特に、“クラシカル”(または“エレガント”)な時計に合うデザインを作るにはうってつけです。
少し説明をします。ムーブメントに厚みがあると、時計自体が厚くなります。そして、厚みがある時計は、どうしても、バランス的にケース幅も大きくしないとバランスがとれません。そのため、大ぶりサイズの時計となり、“スポーティな時計”になります。
逆に、薄いムーブメントなら、時計自体を薄くできます。薄い時計なら、ケース幅を押えることも可能で、「ジャケットに合うようなクラシカルなデザイン」にすることもできます。もちろん、「大は小を兼ねる」で、厚い時計にしてもかまわないでしょう。
例えば、C al.1185を搭載するブランパンのクロノグラフは、自動巻にもかかわらず、小ぶりなケースでかなりクラシカルなデザインを与えることができました。
↑ブランパン「ヴィルレ」
さらに、もしムーブメントに“追加機能”を加えた場合にも、許容範囲の厚みにしやすいでしょう。例えばハリーウィンストンは、さまざまな機能を付加したにもかかわらず、Cal.1185を使って腕時計を現実的な厚みに抑えました。
↑追加機能を加えても許容範囲の厚み
※画像はCal.1185搭載のハリーウィンストン
つまり、Cal.1185は、“スポーティデザイン”になりがちな自動巻クロノグラフに、「デザインの自由」を与えるのです。その「デザインの自由」を活用して、高級時計メーカーは理想の自動巻クロノグラフウォッチを作ったのです。
この「薄さ」こそが、Cal.1185の大きな特徴なのです。
■最後に
今回は、フレデリックピゲのCal.1185を紹介しました。Cal.1185は、自動巻クロノグラフとしては薄い作りを利点として持っており、デザインに高い理想をもつ高級時計メーカーに重宝されました。
また、上では説明しませんでしたが、Cal.1185の別の特徴に、「高級な作り」という点もあります。
専門的になるので簡単な紹介にしますが、例えばCal.1185は、「コラムホイール(ピラーホイール)」を採用します。これは、かつてより高級クロノグラフムーブメントに採用される部品です。
さらに、Cal.1185は「垂直クラッチ」を採用しています。これは、現在の高級クロノグラフムーブメントに多用される構造で、スイスでは、フレデリックピゲが他に先駆けて採用しました。
↑コラムホイールと垂直クラッチを採用
※画像はCal.1180より
つまり、Cal.1185は、「薄さ」と「高級さ」を併せ持っているのです。“高級自動巻クロノグラフムーブメント”の基準機として君臨したことも、納得です!
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