高級腕時計の時計通信

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17.8.2018

【パテックフィリップの名作】10デイズ「Ref.5100」 ~“リアルブリッジ”を採用する美しいムーブメント~

Komehyo

ブログ担当者:須川

 

メモリアルイヤーとして世間が沸いた2000年のことです。パテックフィリップ(PATEK PHILIPPE)は、興味深い作品を世に送り出しました。

 

そのモデルこそ、私が近年の名作のひとつとして評価している「Ref.5100」です。

↑Ref.5100

 

世界最大のエイであるマンタに似ていることから、「マンタレイ」というニックネームをもつモデルです。

 

私がこのモデルを“近年の名作”に挙げる理由は、ムーブメントにあります。

名作である理由は、上の画像をご覧いただくと一目瞭然ですが、まずは、純粋にムーブメントが美しいからです。さらに私は、別の理由でも、このムーブメントに興味を持ちました。

 

私はこのムーブメントを見て、「本当の意味で“ブリッジ”をもつ時計だ!」と思ったのです。

 

今、説明もなくいきなり「ブリッジ」という時計用語を持ち出してしまいました。そのため、もしかしたら皆さんの頭の中で、「ブリッジ!?何?」という疑問が生まれているかもしれません。ただ、ご安心ください。もちろん私も、このムーブメントの面白さを皆さんと共有したいと思っています。以降の文で、ブリッジについてはしっかりと説明させていただきます。きっとそのブリッジの説明が終わる頃には、皆さんも、Ref.5100のムーブメントに魅力を感じていただけると信じています。

 

では、名作Ref.5100の紹介を始めましょう。

 

 

 

 

 

 

■Ref.5100とはどんなモデル?

 

まずは、今回の主役であるRef.5100を知ることから始めます。

 

時計業界は、“メモリアル”が大好きです。つまり、多くの時計メーカーは「◯◯記念」というものに敏感で、そのタイミングで特別モデルを作成することがよくあるのです。その時計業界の慣わし通り、20世紀の最後の年である「2000年」も、パテックフィリップにとって記念すべき対象になりました。つまり、パテックフィリップは、「2000年」を記念して、特別モデルを作成したのです。

 

それが、Ref.5100です。

Ref.5100は4つの種類が作成され、合計で3000本の限定モデルとして発表されました。冒頭でも、このモデルには「マンタレイ」というニックネームがあると紹介しましたが、ケースサイドがエイのひれのように飛び出している尖ったデザインです。

 

腕時計デザインは、腕時計の黎明期である1900年代前期ごろに試行錯誤が行われました。近年では、クォーツウォッチの黎明期の1970年代を除けば、ほとんど“冒険デザイン”は減り、“安定したデザイン”で時計作りをすることが一般的になっています。もちろん、現在のパテックフィリップも同様で、基本的には“安定したデザイン”または“完成されたデザイン”で作品を生み出します。

 

しかし私は、Ref.5100は“冒険デザイン”として作られたように感じます。なぜなら、Ref.5100デザインはまさに“1900年代前期ごろのデザイン”で、そのデザインを現代の人に向けて送り出すことになるからです。その意味で、私としてはRef.5100のデザインはセンセーショナルでした。

そして、当時話題になった点が、10日間パワーリザーブをもつモデルだったことです。

 

少し説明をします。Ref.5100は手巻式時計です。通常、手巻式時計はゼンマイを巻き上げて使い、一般的なものは1日半~2日間(36~48時間)ほどでゼンマイが解けて止まります。その状況を改善すべく、1990年代後期には、65時間や72時間パワーリザーブなど、より駆動時間の長いムーブメントが登場しました。そしてRef.5100と同時期には、ショパールが「約9日間」駆動するL.U.C1.98というムーブメントを発表します。まさに、パワーリザーブが改善され、時計業界の話題となっていた時期だったのです。

 

その状況で、パテックフィリップはそれらを超える、「10日間」駆動するムーブメントを登場させたのです。まさに、センセーショナルでした。

 

つまりRef.5100は、“外装デザイン”と“ムーブメント”の両面で、センセーショナルな作品だったのです。

 

 

 

 

 

 

■“受け”から見る、Ref.5100の美しいムーブメント

 

ここからは、Ref.5100が名作であることを証明すべく、このモデルに搭載されるムーブメント「Cal.28-20/220」の魅力を紹介します。

 

冒頭でも書きましたが、Cal.28-20/220の魅力は、なんといっても「美しいこと」です。ただし、言葉で美しさを説明することは簡単ではありません。そこで今回は、この美しさを“受け”という部品を見ることで、説明しようと思います。

では、イメージをしやすいように説明します。まず、ムーブメントをサンドイッチに例えましょう。サンドイッチは、二つのパンが、具を挟んでいます。ムーブメントも同じで、歯車類(具)を二つの板(パン)が挟んでいるのです。その二つの板のうち、裏蓋に近い方を「受け」と呼び、文字盤に近い方を「地板」と呼びます。

 

そして重要な点は、「ムーブメントは裏蓋側が“表面”であり、その表面にあるのが“受け”であること」です。例えば私たちは、裏蓋を開けたとき、または、シースルーバック越しに覗くときに、ムーブメントを見ることができます。そして、その時真っ先に目に入るムーブメントの外観の大半は、裏蓋側にある“受け”なのです。そのため、“受け”が美しいと、ムーブメント自体が美しく見えます

 

少し俗っぽく表現するなら、「ムーブメントが“イケメン”かどうかは、“受け”の印象で決まる」ということです。

↑上:ETA/プゾー7001、

下:パテックフィリップ215

 

例えば、上の画像は、同じ手巻ムーブメントですが、印象が全然違います。おそらく、多くの方は、下の画像のムーブメント(Cal.215)の方が美しく感じるのではないでしょうか。やはり、“受け”の違いがポイントになっています。一般論で美しい“受け”の条件をまとめると、次のようになります。

 

 

 

<美しい“受け”の条件>

 

①仕上げ、面取りの質が高い

 

②“受け”の形状に、曲線部分が多い

 

③“受け”が、より細かく分割されている(※1)

 

 

 

では、この観点をもってRef.5100のムーブメントCal.28-20/220を眺めてみてください。

↑Cal.28-20/220

 

このムーブメントは、全体的なイメージとして、美しさを感じると思います。その要因は、まず、仕上げの質が高く、“受け”の形状に曲線部分が多いからです。さらに、“受け”は5つに分割されています。ちゃんと、上で挙げた3つの要素を押さえています。さらに付け加えるのであれば、赤みの強い人口ルビーに、金色のゴールドシャトン、8つのマスロットをもつジャイロマックステンプも、美しさを添える要素になっています。これらの要素が揃い、Ref.5100のムーブメントは美しいのです。

 

 

 

 

 

 

■“リアルブリッジ”をもつ面白さ

 

冒頭で私は、「Ref.5100は本当の意味で“ブリッジ”をもつ時計だ」と書きました。少しマニアックな話ですが、これもこのムーブメントの魅力のひとつですので、紹介します。

 

現在、一般的には「“受け”≒ブリッジ」と捕らえられています。しかし、よりマニアックに見ていくと、“受け”は「プレート」タイプと「ブリッジ」タイプに分けられている印象があります。

上の画像を見ていただくと分かりやすいと思います。分割が少なく、“幅広い板”の形状であれば「プレート」、細長く分割されて“ムーブメントに架かっている橋”のように見える形状であれば「ブリッジ」です。例えば、上の画像の左のムーブメントの中央には、細長い“受け”があります。これは、まさに「ブリッジ(橋)」のようです。そして、画像の右のムーブメントは、ドイツ式の「3/4プレート」と呼ばれるものです。「3/4ブリッジ」と言う人はいませんので、やはり“幅広い板”になると「プレート」と表現します。

 

これを踏まえて、再度、Ref.5100のムーブメントをご覧ください。

中央にあるブリッジが、端から端まで届いているのが分かります。「ブリッジ」は“橋”を意味しますので、端から端まで架かっていることが当たり前に感じるかもしれませんが、一般的に、中央に架かるブリッジは端まで届くことはありません

↑上:端までリーチしないブリッジ(一般的)

下:端までリーチするブリッジ(Ref.5100)

 

私は以前より、「ブリッジ(橋)という名称を持つのだから、端から端まで架かって欲しい」と思っていました(※2)。そして、Ref.5100のムーブメントに出会ったときに、「ブリッジが端から端まで架かっている!」と、面白さを感じました。

 

本当にムーブメントに“橋”が架かっていたのです。

 

私にとって、Ref.5100のムーブメントは、まさに“リアルブリッジ”を持つムーブメントなのです。

 

 

 

 

 

 

■最後に

今回は、パテックフィリップのRef.5100が“近年の名作”であることを紹介したい思いで、様々な説明をしてきました。

 

特にパテックフィリップは、かつてCal.9-90という名作の角型ムーブメントを作っていたことでも有名です。そのイメージがあるがゆえに、多くのファンはパテックフィリップの角型ムーブメントに“美しさ”を期待します。きっとパテックフィリップは、そのファンの期待を感じながらCal.28-20/220を作ったのだと思います。

 

もちろん、このRef.5100のムーブメントが、かつてのCal.9-90に匹敵するとまでは言えません。しかし、ロングパワーリザーブという現代性を取り込みながら、そして3000本作らないといけない生産性も達成しながら、よく審美性に富んだムーブメントを作り上げたと思います。

 

弊社では1990年代ごろの名作を“ネクストヴィンテージ”と呼んでいます。そして、このCal.28-20/220は開発に3年ほどかかったそうですので、Ref.5100は1990年代から開発を始めたことになります。私としては、是非、Ref.5100にネクストヴィンテージの称号を贈りたいです。そして同時に、「あっぱれ」を贈りたいです!

 

 

 

※1・・・一般的に“受け”は細かく分割された方が審美性が高いとされます。その証明として、スイスの伝統的なスタイル「ジュネーブ様式」のムーブメントは、分割された“受け”を採用しています。ジュネーブは審美性も大切にする時計作りをしますので、彼らの感覚では、分割された“受け”に美しさを感じるのでしょう。ただし、ドイツのランゲ&ゾーネの3/4プレートのように、分割をせずに仕上げの質や彫刻で、ムーブメントを美しく見せることも可能です。

 

※2・・・ブリッジは基本的に「橋」を意味しますので、“端から端まで架かっている”ものです。ただ、「船のブリッジ(艦橋/船橋)は“端から端まで架かっていない橋”ではないか」という反論もあるかもしれません。しかし、実は「艦橋/船橋」の本義は、外輪船の時代に“左右の外輪の上に橋を架けたもの”なのです。そのため、船で言う「ブリッジ」も、本来は“端から端まで架かっているもの”なのです。

 

 

 

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