高級腕時計の時計通信

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18.3.2016

オーデマピゲの美しい時計「ミレネリー4101」は日本人時計師の活躍で生み出された! ~本場スイスに認められた時計師「浜口尚大」氏~

Komehyo

 

ブログ担当者:山口

 

時計業界における世界の中心地は「スイス」です。ロレックスやパテックフィリップを筆頭に、数多くの名門時計メーカーがこの地で時計作りを行っています。そして、この時計大国の屋台骨を担うのが多くの「時計師」たちです。スイスで活躍するほとんどの時計師はスイスを中心とした欧州の出身と聞きます。フランク・ミュラー氏、アントワーヌ・プレジウソ氏、フィリップ・デュフール(デュフォー)氏など有名な時計師の多くが欧州出身であることがその証明と言えます。つまり、高級時計といえば「欧州の人が作り、世界の人々が使う」という構図がずっと続いてきたのです(一時アメリカが台頭した時代もありましたが)。しかし最近、日本人時計師が登場し、活躍を始めています。その筆頭格が「浜口尚大(はまぐち たかひろ)」氏です。日本で時計製作をしているわけではなく、なんと本場スイスの名門メーカーに所属して活躍しているのです!

 

今週は、そんな日本人時計師である浜口氏が製作に関わったオーデマピゲの美しい名品「ミレネリー4101」を通して、彼が本場スイスでも認められていることを述べさせていただきます。

 

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↑浜口氏の活躍で生み出された「ミレネリー4101」

 

 

 

 

 

◆浜口氏はスイス屈指のムーブメントメーカー出身!

浜口氏の経歴で、第一に注目すべきは「ルノー・エ・パピ」出身であるという点です。「ルノー・エ・パピ」は時計業界の中でも複雑機構の開発を得意とするスイス屈指のムーブメントメーカーです。ルノー・エ・パピにムーブメント開発を依頼すると、トゥールビヨンを始めとする複雑機構は当たり前のように搭載され、さらにプラスαの革新的な新機構が頻繁に搭載されます。浜口氏は、そんな有能な時計師集団「ルノー・エ・パピ」に唯一の日本人メンバーとして加わりました。その後、ルノー・エ・パピの親会社である「オーデマピゲ」本社の開発部に移籍します。ルノー・エ・パピ、オーデマピゲで重要な開発をした後、浜口氏は新たな道を選び、現在は同じくスイスの高級ムーブメントメーカー「ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエ」に所属しています。

 

 

 

 

◆浜口氏が開発に携わった「ミレネリー4101」

浜口氏がルノー・エ・パピからオーデマピゲに移籍してすぐに担当したのが「ミレネリー4101」です。このモデルは「ミレネリー」ラインの革新的なバリエーションです。ベースになった「ミレネリー」は2000年、ミレニアムイヤー直前に記念モデルとして誕生したモデルで、滑らかな形状のオーバルケースはローマの「コロッセオ」(円形闘技場)から着想を得たとされています。

 

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↑左:ミレネリー(型式77161ST.D002)
↑右:大型化されたミレネリー(型式15320BC.OO.D002CR.01)

 

3針のノーマルタイプの他に、クロノグラフ、デュアルタイムなど、バリエーションも豊富でした。その後、2006年にリニューアルされ、ケース径が45mmと大型化します。更にオフセンターダイヤルの採用と、その個性がより一層際立つようになりました。「ミレネリー」は常に新しいスタイルで登場し、オーデマピゲのラインナップの「変化球」として時計愛好家に愛されてきました。

 

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↑ミレネリー4101(型式15350ST.OO.D002CR.01)

 

そのミレネリーラインから、2011年に「ミレネリー4101」という美しい作品が登場します。なんといっても特徴は「文字盤側を魅せる(見せる)」点です。針とインデックスのある部分を「文字盤」と呼ぶことにしますが、フェイスの文字盤以外の部分はムーブメントが透けて見えているモデルです。さらに、裏蓋側もシースルーバックになっており、時計両面からムーブメントが鑑賞できるように設計されています。

 

そして、「4101」はムーブメントのキャリバーナンバーです。オーデマピゲを代表するモデル「ロイヤルオーク」などに搭載されているオーデマピゲの基幹自社ムーブメント「3120」を専用仕様にしたものです。「3120」はブリッジ※1の数が6個なのに対し、「4101」に至っては、なんとその数が倍の12個にものぼります。これは、より高い審美性を追求してより細かなブリッジを配置したと言われています。

 

 

 

 

◆浜口氏が「ミレネリー4101」の開発を担当したことには意義がある!

ここまでで、浜口氏の経歴と彼がミレネリー4101の開発を担当したことを述べました。では、浜口氏がこの時計の開発担当に抜擢されたことにはどのような意味があるのでしょうか?それはミレネリー4101というモデルの立ち位置から感じることができます。

 

実は、ミレネリー4101の斬新なデザインには起源が存在します。それは2007年に発表された「ミレネリーデッドビートセコンド(26091OR.OO.D803CR.01)」です。これは、その前年の2006年にオーデマピゲが発表した画期的な脱進機構「AP脱進機※2」を搭載したモデルでした。このモデルは画期的なAP脱進機(テンプ部分)を魅せるために、文字盤側をスケルトナイズし、針をセンターからずらしました。「主役はテンプ部分」と言わんばかりの文字盤レイアウトは、とても美しいものとなりました。多くの時計愛好家から熱視線を浴びたことは、記憶に残っています。しかし、ピンクゴールドケースをまとったこのモデルは発売当時、2000万円近くのプライスがついていました(その後更に価格改定で高騰します)。例えこの美しいデザインの時計に魅了されても、この高嶺の花のようなプライスでは簡単に入手できません。そこで、オーデマピゲはこう考えたのではないでしょうか。「この美しいデザインのミレネリーを、もっと多くの愛好家の手の届くプライスにできないか?」と。そしてミレネリーデッドビートセコンドと同じ「顔」をもつモデルが2011年に登場します。それが、浜口氏が担当したミレネリー4101です。もちろんAP脱進機ではなく一般的なレバー脱進機にしましたが、特筆すべきは、なんとステンレスケースをラインナップしたのです!ステンレスケースのミレネリー4101は現在でも現行品としてラインナップされていますが、プライスは200万円台に収まっています。

 

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↑テンプ部分をメインに据えるデザイン

 

浜口氏が設計したミレネリー4101は簡単なものではありません。ムーブメントの一部を文字盤側から魅せなければならないので、本来「裏蓋側が表」であるというムーブメントの常識を覆さなければなりません。そして、それを少量生産のモデルとしてではなく、一定量を生産するライン生産モデルとして設計しなければならないからです。そのような大役を担う人物として抜擢された浜口氏は、オーデマピゲから期待されていたことは間違いありません。そして、このミレネリー4101はオーデマピゲの思惑通り、多くの時計愛好家たちに支持されたのです。ルノー・エ・パピの時計作りから判断すると、過去に浜口氏が携わった時計は少量生産の時計だったはずです。そのため、ある程度の生産数のあるレギュラーモデルのミレネリー4101をヒットさせたことには意味があります。そう、おそらくミレネリー4101は「世界的なビッグメゾンにて、日本人時計師が作る初のヒットモデル」でしょうから!

 

本場スイスからも評価される浜口氏の活躍を、これからも願っています。

 

 

 

※1・・・ 時計のムーブメント構造は簡単に言うと、歯車やテンワなど軸のある部品を両側からプレートがサンドイッチのように挟んでいる構造をしています。その挟んでいるプレートのメインプレートを「地板」と言い、それの逆側にあるプレートを「受け」と言います。「受け」のことを別名「ブリッジ」と呼びます。一般的にはムーブメントを裏蓋側から見た際に、手前側を覆っているプレートが「受け」ですが、ミレネリー4101には文字盤側にも「受け」があります。

 

※2・・・ゼンマイで動く機械式時計はゼンマイが一瞬で解けないようにしなければなりません。それだけでなく、ゼンマイを時刻を刻むスピードで解けるようにしなくてはなりません。そのため機械式時計には「規則正しいペースを作る機構」と「その規則正しいペースを出力する機構」が組み込まれます。前者が「調速機」です。イメージしやすいところで言うと、柱時計の「振り子」は調速機にあたります。腕時計は「テンプ」と呼ばれるヒゲゼンマイをもつ機構です。そして後者が「脱進機(エスケープメント)」です。腕時計ではガンギ車とアンクルという部分がこれを担います。一般的には携帯安全性の高い(スイス)レバー脱進機という種類の機構が採用されます。しかし、10年ほど前から時計業界では脱進機を改良するメーカーがいくつか現れ、オーデマピゲもAP脱進機を開発しています。従来のレバー脱進機よりエネルギーロスが少なく、且つアンクルへの注油も不要、そして携帯安全性も併せ持った画期的機構です。

 

 

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