高級腕時計の時計通信

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5.6.2020

機械式時計の醍醐味「裏スケルトン」 ~良いシースルーバックの条件とは?~

Komehyo

ブログ担当者:那須

 

■機械式時計の醍醐味「裏スケルトン」 ~良いシースルーバックの条件とは?~

 

皆さんは、高級腕時計の「裏スケルトン」という用語をご存じでしょうか。

 

裏スケルトンは、「時計の裏蓋が、通常の金属裏蓋ではなく、“ガラス張りの裏蓋”になっていること」を指します。裏スケルトンの裏蓋は、別名で「シースルーバック」や「トランスパレントバック」とも呼ばれることがあります。

↑裏スケルトン

 

上に裏スケルトンモデルの画像を用意しましたが、こちらを見るとわかりやすいと思います。

 

通常の時計は、金属の裏蓋ですので、裏蓋を開けなければ、内部のムーブメントを見ることができません。しかし、裏スケルトンの時計は、ガラス越しに内部が見えるようになっており、ムーブメントを常時鑑賞できるようになりました。現在では、多くの有名メーカーが裏スケルトン仕様を採用しており、定番的に採用される仕様として定着しているように思います。

↑通常は金属の裏蓋

 

腕時計は高級になればなるほど、嗜好品としての意味合いが強くなります。つまり、高級になればなるほど、「魅せる」ことが重要になります。そのため、高級時計は、外装だけでなく、内部の美しさやこだわりまで表現できた方が、消費者にその時計の良さを訴えやすいということになります。そのための手段のひとつが、裏スケルトンです。

 

今回はこの裏スケルトン仕様について、その誕生と是非について語っていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

いつ“スケルトン仕様”は誕生したのか?

 

「裏」スケルトンについては、サファイアクリスタルガラスの加工技術が飛躍的に伸びたことの恩恵が大きく、1990年前後から採用するブランドが増えてきました。さらに掘り下げると、「表」の文字盤がスケルトンダイヤルになっているものの歴史は更に古く、諸説ありますがその誕生は今から200年以上も昔と言われています。

 

最も有名なスケルトン仕様のモデルは、「世界で最も美しく、高額な時計」としても知られる懐中時計ではないでしょうか。それはフランスのマリーアントワネットが、天才時計師ブレゲに依頼した超複雑時計「ブレゲ No.160」です。それはありとあらゆる機能が盛り込まれた時計で、まさに芸術品です。

 

この時計がスケルトンになったのは、多くのメカニズムを組み込んだ姿を見せることにあり、「機能美」を魅せるために生れたれたものだと言えるでしょう。これが、裏スケルトンの元々の意図だと思われます。

 

 

 

 

 

 

■裏スケルトンの魅力とは?

 

裏スケルトンの魅力は、何といっても「職人技でつくられた機械式時計の魅力を、内部から感じることができる」点にあるでしょう。特に、手間をかけて作るハイエンドな時計メーカーにとっては、内部の美しさやこだわりまで表現できた方が、消費者にその時計の良さを訴えやすいという意図もあります。

 

また、機械式時計の一本目を求める方に、「機械式であること」をアピールしやすいメリットもあります。そのため、近年ではハイエンドなブランドでなくても、裏スケルトンを採用することが増えました。

このような意図で、近年は、さまざまなブランドで裏スケルトンが採用されてるようになりました。

 

 

 

 

 

 

■「裏スケルトンなだけ」の時計に魅力はあるか?

 

ここからは、裏スケルトンの是非について、私の意見を紹介します。

 

近年では、裏スケルトンを採用しないブランドを探すほうが困難なほど、多くのブランドで裏スケルトンが採用されています。それは、前述の通り、ハイエンドなブランドから、エントリーブランドまで、津々浦々です。もちろん、エントリーブランドで裏スケルトンモデルが入手できることは、安価で機械式時計の醍醐味を味わいたいという方には良いものです。

 

しかし、「機能美を追求した結果生まれた」であろう裏スケルトンの本来の意図からすると、無条件にどんなモデルもスケルトン化することに対し、私は多少の違和感を感じています

例えば上の画像は、代表的な量産型ムーブメントであるETA社製ムーブメントです。こちらの標準仕様は、生産性を高めるために、敢えて魅せる工夫はされておらず、シンプルな外観が特徴的です。

 

前述したマリーアントワネットの時計は、「機能美を見せるために」スケルトン仕様にしました。しかし、上のシンプルなETA社製ムーブメントは、特に「機能美を見せる」意図はないでしょう。どちらかというと、「機械式時計であること(クォーツ時計でないこと)をアピールする」意図の方が強いのではないでしょうか。

 

マリーアントワネットの時計の例が裏スケルトンの本来の意図だとすると、このような無装飾の量産型ムーブメントを敢えて見せることの是非は、評価の分かれるところでしょう。この点は、皆さんがどのように評価されているか、私も味深いところです。

 

 

 

 

 

 

■“良い裏スケルトン”の条件とは?

 

ここでは、“良い裏スケルトン”の条件を紹介します。

 

 

 

<良い裏スケルトンの条件>

 

①「元々、鑑賞を意図して製造されたムーブメント」を搭載している

ハイブランドの一部は、“昔ながらの手作業を取り入れたムーブメント”を採用します。特にスイスの昔の時計師は、審美性を意図した作りをしますので、“昔ながらの手作業を取り入れたムーブメント”は美しい外観を持ちます。

また、最近設計された時計メーカーの“自社製ムーブメント”も、裏スケルトンにされることを前提に作られていることが多い印象です。

 

 

 

②元々鑑賞を前提に製造されていないムーブメントに、「鑑賞できるポイント」を付加している

大量生産をしたいムーブメントであれば、通常仕様はシンプルにしたいものです。しかし、採用するメーカーの意思で、それらのムーブメントに「鑑賞できるポイント」を加えることがあります。この場合も、「少しでも外観を美しくしよう」という気概が見えますので、私は評価します。

 

例えば、仕上げでは「ペルラージュ」や「コートドジュネーブ」、部品では「スワンネック」、「チラネジ」、「ゴールドシャトン」、「青焼きネジ」などを取り入れた場合などです。

 

私は、上の条件を満たす場合に、「良い裏スケルトンだ」と評価します。

 

逆に、下の場合は、「裏スケルトンにしなくても良かったのでは」と感じてしまいます。

 

 

・元々鑑賞を前提に製造されていないムーブメントを「そのまま」載せている場合

 

・裏スケルトンがモデルコンセプトに合わない場合

※例えば、強い磁気の影響を懸念されるパイロットウォッチやダイバーズウォッチに、磁気を内部に通してしまう裏スケルトンを採用する場合など

 

 

もちろん、これは飽くまで個人的な意見です。いろいろな意見があって良いと思います。

 

 

 

 

 

 

■最後に

 

一口に裏スケルトンといっても、見せる意図を持ったものから、そうでないものまで色々あることがお分かり頂けたと思います。

 

しかし、注意が必要です。それは、“良い裏スケルトンの条件”を追求することは、モデル選定の選択肢を極端に狭めることに繋がってしまう可能性があるからです。

 

今回は、「裏スケルトンの是非」を純粋に意見しただけであり、その条件だけで時計を評価することは、非常にもったいないことです。なぜなら、“良い裏スケルトンの条件”に当てはまらない裏スケルトンモデルでも、総合的に評価すると“高い評価”になることも多いからです。

今回の内容は、飽くまで、「高級時計の見方のひとつ」ぐらいの感覚で捕らえていただくと幸いです。

 

 

 

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