高級腕時計の時計通信

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15.5.2015

知っていますか?世界初のアラームウォッチ! ~ヴァルカンの銘品「クリケット」~

Komehyo

ブログ担当者:増川

 

 

今週は少しニッチではありますが、時計史に残るアラームウォッチを発明した時計メーカーを紹介させていただきます。そのメーカーとは「ヴァルカン(VULCAIN)」です。

 

↑時計史に残るアラームウォッチ
※画像はゴールデンヴォイスロンド(型式V100117.087L)

 

 

 

 

 

◆世界初のアラーム機能付き腕時計の登場

ヴァルカンは19世紀から活躍する時計メーカー(当時は社名が今と異なります)で、当時「技術の見せ合い」を激しく行っていた万国博覧会で受賞経験があるほど、技術の高かったメーカーだと聞いています。そんなメーカーが挑んだ前人未到の挑戦が、「腕時計にアラーム機能を組み込むこと」でした。そして、1947年に世界初のアラームウォッチとしてヴァルカンより発表されたのが「クリケット」でした

「腕時計に」という言葉を使用しましたが、つまり、懐中時計などでは以前からアラームウォッチは存在していたという意味です。時計の歴史では20世紀の前半に「懐中時計→腕時計」という流れがありますが、これは時計のケースサイズをいかに小型化するかという歴史でもあります。懐中時計のムーブメントサイズを男性用の腕時計サイズにするだけで良いのであれば、技術的な心配はそこまでありませんでした。しかし、高い精度を求めるという点においては、「ムーブメントの小型化」や「時計の標準姿勢の複雑化 ※1」という問題をどのようにクリアするかは時計メーカーにとって新たな挑戦だったかと思います。そして、1915年にブライトリングが腕時計クロノグラフを開発したように、軍事需要がある機能にも同時に力が注がれます。ただ、「軍事需要が少なかった機能」への挑戦は後回しにされたのか、アラーム機能を腕時計の形で実現するまではずいぶんと時間がかかった印象を受けます。

 

そのような背景の中登場した、アラームウォッチの金字塔「クリケット」ですが、時計愛好家がピンとくるイメージがあります。それは「クリケット=プレジデントウォッチ」というイメージです。

なぜそのようなイメージがあるのか?それは、クリケットが「ハリー・S.トルーマン」、「ドワイト・D.アイゼンハワー」、「リンドン・ジョンソン」、「リチャード・ニクソン」などの歴代アメリカ大統領に愛用された時計としても世界的に有名だからです。

 

今日まで残る有名なエピソードとして、「コオロギのような小さな生き物が30m以上離れても聞こえるほど大きな音を出せる現実がある以上、小さなケースの腕時計でもほぼ同じことができるはずだ」と言った物理学者のポール・ランジュヴァンの言葉を受け、ヴァルカンの3代目であるロベール・ディティシャイムはアラームウォッチの完成を目指したと言われています。実に5年に及ぶ開発の末にヴァルカンのオリジナルアラームウォッチが完成しました。エピソードに登場した「コオロギ」にちなんで、「クリケット」と命名されました。

 

 

 

◆クリケットのアラーム音はどのような音

現在の私たちが考えるアラームの音といえば、「ピピピピ…」となる電子音のイメージがあります。しかし、クリケットは電動式の時計がまだ無かった時代のアラームウォッチですので、当然電子音とは音の種類が異なります。言葉にすることは難しいですが、まさにコオロギの鳴き声に近い「ジーン…」といった類の音です。

 

コオロギのように「鳴く」腕時計を実現できた解決策は、「ハンマーで二重構造の裏蓋をたたき音を増幅させること」でした。それにより、クリケットの手巻きムーブメントCal.120は強力な音響を出すことに成功しました。そして、そのムーブメントは時計用とアラーム用で別の駆動用ゼンマイを持っており、2つのゼンマイの巻き上げを1つのリューズで行う画期的なものでした。更に、「2つのゼンマイ」の別の恩恵として、機能を独立させることで駆動時間をしっかり確保できる点もありました。

 

 

 

◆クリケット、「冬の時代」から復活まで

しかし、センセーショナルなクリケットを産み出したヴァルカンにも「冬の時代」が訪れます。可能な限り自社製造する独立マニュファクチュールにこだわったヴァルカン社ですが、時代の流れに逆らえず、とうとう「MSR」というグループの一員として経営することになります。その後、MSRが同グループ内の「レビュートーメン」に統合され、クリケットも1986年ごろからレビュートーメン名義で発売されるようになってしまいます。つまり、ヴァルカンクリケットの消滅です。

 

しかし、2002年、ヴァルカンブランドは念願の復活を遂げます。もちろんクリケットを引き下げて。21世紀のヴァルカンは、かつての手巻きアラームムーブメントを踏襲した新ムーブメントの開発だけでなく、自動巻アラームムーブメントの開発にも成功します。そして、本格的に日本にも上陸しており、最近は日本マーケットでも存在感を増しています。現行モデルは少し以前とデザインを変えていますが、波乱万丈に生き抜いた「ヴァルカンアラームウォッチ」の存在に注目してみてはどうでしょうか。

 

 

 

※1・・・懐中時計はポケットに収めた状態・手に取った状態・保管時の状態が通常姿勢になる。しかし、腕時計は複雑な人間の腕の動きを考慮しなければならないので、特にロービート機にとっては高精度を出すことは難易度が高い。

 

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