29.1.2016
数々の有名人も愛用! シャネル「J12」はなぜ人気があるのか?
Komehyo
ブログ担当者:南
2000年に時計業界にある革命が起きました。それはシャネルから「J12(ジェイトゥエルヴ)」という時計が発表されたことです。
↑J12
私がこのJ12の誕生を「革命」と表現したことには理由があります。それは、J12が時計業界に「セラミック(※1)」という素材を浸透させる偉業をやってのけたからです。
実はそれまでにもラドー(RADO)によってセラミックなどの新素材を時計に採用する試みはありました(※2)。ただ、それはあくまでマイノリティとしての存在でした。しかし、シャネルのJ12以降、時計業界では多くのメーカーがセラミック採用に踏み切る「セラミック旋風」が巻き起こります。いかにJ12の影響が大きかったかがわかるエピソードです。
では、なぜ多くのメーカーがセラミック採用に踏み切ったのでしょうか?その理由を突き詰めると、「セラミックの外装を持つJ12の人気が凄いから」に他なりません。数々の有名人も愛用し、時計業界で市民権を得たJ12は、他の時計メーカーから羨望されていたようにも感じます。
そして今回の内容は、「なぜJ12は人気があるのか?」です。この疑問の答えに迫るべく、シャネルの「J12」について書かせていただきます。
■歴史的デザイナー「ココ・シャネル」の遺伝子を持つJ12
J12が人気である理由のひとつに、シャネルというブランドが既に「格」をもっていたという点が挙げられます。
シャネルは言わずとも知れた、ファッション界を牽引してきたスーパーブランドです。シャネルは、創業者ココ・シャネル(本名ガブリエル・ボヌール・シャネル/1883-1971年)が、1910年にパリのカンボン通りに「シャネル・モード」という帽子店を開業させたことが始まりです。その後、1914年にファッションブティック「ガブリエル・シャネル」を開業させシンプルなデザインと機能性を重視した洋服で人気を集めました。創業当時、ファッション界では「喪に服す」という意味がありタブーとされていた「黒」をアイテムに取り入れることで、ファッション界に革命を起こしました。これはシャネルを語る上では有名なエピソードとなっています。
シャネルには、ココ・シャネルの「不要なものはそぎ落とす」という哲学があります。時を経て2000年に誕生したJ12にも、その哲学が通用するように感じます。例えば、J12はシャネル初のメンズウォッチ(レディスもあります)ですので、男性向け時計作品としてはシャネルの処女作です。新参時計メーカーであれば、その処女作に派手さやインパクトを求めます。それに対し、J12はシャネルらしい個性を保ちながら、過度な要素は見られません。それは、シャネルが既に「格」を持った高名ブランドであり、時計にも「品格」を与える必要があるからです。世間には既にシャネル作品に対する信頼があり、J12がすぐに時計業界のアイコニックピースになったことも頷けるところです。
■J12はなぜ「セラミック」の時計を作ったのか?
シャネルが2000年の9月にJ12を発表するまでには7年余りの歳月がかかりました。それには理由があります。実は、J12を開発することはシャネルにとって挑戦でした。多くの「初」にチャレンジしたからなのです。
<シャネル「初」の要素>
①シャネル初のセラミックウォッチ
②シャネル初の200m防水時計
③シャネル初の自動巻時計
④シャネル初のメンズウォッチ
※シャネルは以前からレディスウォッチには注力していました。1987年には女性用腕時計「プルミエール」 を発表し、大ヒットしています。
上を見ただけでも、シャネルにとってJ12が挑戦的な時計であることがお分かりいただけるかと思います。もちろん、J12開発の人選も大物を起用しています。そう、ジャック・エリュ氏です。惜しくも2007年に亡くなってしまいましたが、長年シャネルのアーティスティックディレクターとして手腕を振るった超大物です。エリュ氏は最終的に50年以上シャネルに在籍した人物ですので、彼はシャネル作品が「シャネル」であるためのエスプリを熟知しています。
実はJ12は、「時代を超え不滅」であるべき時計として作られたと言われています。その理想を実現させる素材が「セラミック」でした。セラミックは傷や変色に強い素材なのです。J12開発のために、シャネルは優れたセラミックで時計を作るノウハウをいち早く確立し、今ではセラミックウォッチ製造の第一人者として時計業界に君臨しています。
そしてもちろんデザインは、シャネルのエスプリである「黒」と「白」で作られました。後年、同じ無彩色である「グレー」も加わります。J12登場以前の腕時計といえば、銀系色のステンレス・ホワイトゴールド・プラチナ、黄金色のイエローゴールドで作られるのが普通です。つまり、当時は腕時計が「黒一色」や「白一色」でつくられることは少なかったのです。J12が登場すぐに人気が出た理由は、この「色」という要素にもあるのかもしれません。
↑黒色のH0685
↑白色のH0970
■シャネルはお洒落な人の「ツボ」を押さえるのが上手い!
ここまででJ12の人気の理由をいくつか述べました。それは、J12登場時にシャネル自体が既に「格」をもつブランドであった点、それから、J12登場時には外装のほとんどを黒や白の一色構成で作った時計が珍しかった点でした。
そして、ここからがJ12の最大の成功ポイントです。それは、シャネルが消費者の心理の核心を捕らえた時計作りをしたからです。つまり、シャネルの商品購入層は「お洒落な人」であり、純粋にシャネルはお洒落な人の「ツボ」を押さえるのが上手いのです。
例えば、腕時計を「時間を知る道具」ではなく「ファッションアイテム」とみなしましょう。その場合、重要になる要素は何でしょうか?おそらくお洒落な人にとって大事な要素は「主張」と「個性」です。
つまり、シャネルはJ12を一目で「シャネルの時計」と分かるようなアイコニックな作品として作り上げ、J12を身に着けた方が「シャネルの時計をしている!」と主張しやすいようにしました。そして、シャネルはJ12のラインナップに幅広いバリエーションを設け、J12の購入者が自分だけの個性を打ち出せるようにしました。この二つの点を上手に押さえてシャネルはJ12を作っています。もちろん、J12は前提として「時間を知る道具」としての優秀さも押さえており、実用性の高さが基本スペックとして備わっています。
ここで、どれほどJ12に豊富なバリエーションがあるかを紹介したいと思います。もちろん全ては網羅できませんが、そのバリエーションの要素の一部を紹介することでJ12の幅広さを感じて頂けたら幸いです。
<豊富なバリエーション>
①サイズ(ケース径)
・29㎜
・33㎜
・36.5㎜
・38㎜
・41㎜
・42㎜
※小ぶりな女性用から大ぶりな男性用までサイズの幅がある
※追記(2018/1/9)
現在では、19mm、47mmもラインナップされています。
②カラー&素材
・黒(2000年~)
・白(2003年~)
・グレー(2011年~、「チタンセラミック」と呼ばれる素材)
※更に一部にゴールドやアルミを使用したモデルもある
↑「チタンセラミック」のクロマチックH2979
↑アルミの「スーパーレッジェーラ」H1624
③ディテール
・インデックスを本体色と同一にしたモデル
・ベゼルに淡いブルーやグリーンを使用したモデル
・バンドにラバー・革・ナイロンを採用したモデル
・ダイバーモデル
・その他限定モデル
など
↑インデックスが同色のH3829
↑ベゼルがブルーのH4341
④装飾される宝石
・インデックスにダイヤ
・ベゼルにダイヤ
・ブレスレットにダイヤ
・文字盤中央にダイヤ
※その他にもルビー/サファイヤ/エメラルド/ブラックダイヤもあり
↑ベゼルとブレスにダイヤH1706
↑文字盤にダイヤH1759
⑤ムーブメント
・クォーツ
・自動巻
・GMT
・クロノグラフ
※更にオーデマピゲと共同開発したスペシャルムーブメント、複雑機構のトゥールビヨンを搭載したムーブメントなどもあり
↑GMTのH3103
↑クロノグラフのH0940
↑J12のオーデマピゲのムーブメント
上で紹介した以外にもバリエーションは存在し、組み合わせを考えても100種類以上のバリエーションがあります。
■最後に
ここまでで見たように、J12は好みのタイプを選び「個性」を出すことができます。
つまり、腕に着けるだけでJ12は「シャネルである」という主張をできるだけでなく、「どのJ12を選択したか」をアピールすることにより個性も打ち出すことができます。
ファッションアイテムとして考え抜かれた作品であることがわかります。さらに、そこにココ・シャネルの哲学が反映されていることで、J12は新世紀の時計ながら「シャネルの伝統」をまとった作品にもなっています。
お洒落な方が好む「ツボ」を押さえ、シャネルの伝統という「格」をもつ最強ウォッチ。それが、人気の時計「J12」の正体なのではないでしょうか?
※1・・・ここでは「セラミック」と表現していますが、セラミックはいろいろな意味が含まれます。広義に捕らえると「無機物を焼き固めた焼結体」であり、陶磁器やガラスも含まれてしまいますが、ここでは「ハイセラミック」というニュアンスで使用します。これは独自のレシピや製法でセラミックの製造を制御し、より良い機能や質を与えたファインセラミックスの範疇です。
※2・・・ラドーはセラミックの外装をもつライン「セラミカ」を1989年から展開している。
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